ストライクウィッチーズのSSを書いてます。 その他百合中心で書くつもりですが、普通の日記も書くかも。
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SS「不可抗力とテディベア(ニパ×サーシャ, ちょっと長め)
クマさんのベッド侵入SS。
エイラーニャが502に来ているというラジオの設定準拠の話です。どうぞー
不可抗力とテディベア


1.


「なん……ですって……」

 くらりと目まい。事情聴取で判明したのは恐るべき事実。

「……だからナ? ポクルイーシキン大尉。サーニャは夜間哨戒で疲れてるんダヨ。それで……」

 まだ起床ラッパも鳴らない、早朝の廊下。目の前に正座させたエイラさんが、恨みがましそうな目で私の事を見上げています。

「……え、エイラさん」

 エイラさんの前に屈みこみ、ぐいっと彼女の襟元を掴みました。

「な、ナンダヨ」

 後ずさりしようとするエイラさん。私はそんなエイラさんに詰めより、彼女の目を覗き込みながら問いかけます。

「……さっきの、言葉を、もう一度、繰り返してもらえませんか?」

 一言一言、噛んで含めるように問いかける私の剣幕に押されたのか、エイラさんの頬に冷や汗がたらり。エイラさんは視線をそらし、宙に視線をさまよわせて言葉を探します。

「……え? え? エート。……さっきのって、『サーニャは、夜間哨戒で疲れてるんダヨ』ってやつか?」
「いいえその。もうちょっと前です」
「えーと。……『ここの床冷たいぞ。お前ニパにいつもこんな事させてるのかよー』か?」
「もうちょっと、いえそのもっと前」
「えー? じゃあ、『何すんだよ! いきなり廊下に引きずり出すなんてヒドイジャナイカー』」
「戻りすぎです。ちょい早送り」
「『私はベツニ……さ、サーニャをベッドに引っ張り込んだんじゃなくて……、私とサーニャは、ソノ、そういうのじゃ、ナクテー……』」
「もうちょい! ちょい先!」
「『……サーニャは寝ぼけてベッドに入りこんでくるだけなんだから……』」
「それです!!」

 オオウ……。本日二度目のめまいが私を襲います。
 冷たい床に手を突いて、よろめく身体を支えました。

「――お、オイ。大尉?」

 そんな私を正座したまま、訝しげな目で見ているエイラさん。彼女がサーニャさんと共にこの基地に転がり込んできたのは、ほんの数日前の事です。
 常に戦力が不足気味な私達502の任務に参加してくれる優秀な航空歩兵、という意味ではエイラさん達の訪問は大助かりなのですが、問題は彼女の素行、というか行状でした。
 昔なじみなのをいい事にニパさんにべたべたべたべたと付きまとうのみならず、今朝は事もあろうにサーニャさんを寝室に連れ込んで同衾、という許されざる所行に対して正座させて反省を促したところ、彼女は恐ろしい事実を口にしたのです。

 寝ぼける。寝ぼけて、ベッドに。
 サーニャさんは、エイラさんのベッドに。寝ぼけて。

「――」
「……お、おい? 大丈夫カ?」

 エイラさんの心配そうな声を聞きながら、フリーズしたままの私。頭の中では先ほどの「寝ぼけてベッドに入り込んでくる」という言葉がぐるぐるとリフレインしています。

 ……盲点でした。
 無意識にであれ、本当は意識的であったのであれ。寝ぼけていたというのなら、エイラさんとサーニャさんが同衾していたことは、事故としか言いようが無いのです。
 寝ぼけているのなら、人のベッドに潜り込んでも許さざるを得ない。これは、そう言う事なのです。

(――これなら)

 そしてその事は、私にあるひらめきをもたらします。

(――寝ぼけているのなら、私がニパさんのベッドに潜り込んだとしても、それは不可抗力ではないですか――!)

 ……なんと素晴らしい。
 さすがですサーニャさん。さすがですオラ魔女!
 我らがオラーシャの大地が育んだ知恵は、愛する人のベッドに躊躇なく潜り込む術を、既に生み出していたというのですか――!!



----



 ――私、アレクサンドラ・I・ポクルイーシキンは、第502統合戦闘航空団の戦闘隊長として、部隊の風紀の維持に努めています。

 暴飲暴食器物破損。寝坊買い食い門限破り。そして許しがたいセクハラの数々。隊長が放任主義なのをいい事に、数々の悪習がはびこり、崩壊寸前にある我が部隊の規律と風紀。私はそれを、ロスマン曹長と共に支えていかなければいけない立場にあります。
 ここは軍隊であり、私達は世界の期待を受けて組織された統合戦闘航空団です。その部隊の中で不埒は許すわけにいきません。
 ただでさえ癖の強い人たちが集まっている部隊です。私とロスマン曹長が頑張らなければいけないのです。
 そうでなければこの部隊は、たちまちにして渦巻く欲望のるつぼの中に叩き落されるでしょう。

 ――けれど。

 軍人といえど。ウィッチといえど。私だって16歳の女の子です。
 クルピンスキー中尉の様に、とまでは言わなくとも、人生を、恋を謳歌する事に、憧れない訳ではないのです。

(……ニパさん……)

 どれほどの不運に見舞われても、祖国と仲間のために飛ぶ事をやめない人。
 不運と弱さを知るがゆえに、人に優しいあの人。
 私の手助けに気付いてくれて、くすぐったそうに感謝の言葉を述べるあの人。
 そんなあの人の傍にいたい。今よりもっと近づきたい。私はそう思ってしまうのです。

 何かと無茶を犯すあの人が心配で、つい口うるさく説教をしてしまうとしても。
 色恋に鈍いあの人が戸惑うのが怖くて、素直に甘えることが出来なくても。
 風紀を維持する役目柄、不埒な事が出来ないとしても。
 好きな人と共に過ごす幸せ。触れ合い心を通い合わせる喜び。
 憧れながらも叶えられない、そんな望みが胸を焦がさない日は、一日たりともないのです。

 しかし、それも今日まで。
 私にも、出来ます。
 寝ぼけているのなら、出来るのです。

 ニパさんの身体に手を回して抱き寄せることも。
 一つの毛布に包まりながら凍るような夜を明かすことも。
 薄い夜着を通して互いに温もりを分け合うことも――!

(……合法っ! 全て合法ではありませんかーーー!!)

 YES。
 責任能力なしとみなされれば、法廷でも無罪。
 「不可抗力」の名の元に、全ての不埒は許されるのです!

(す、素晴らしい……。素晴らしいですよエイラさん……! サーニャさん……!)

 早くもベッドに入り込んだ後に起こりうるであろうあれやこれやを考え始める思考をなだめて立ち上がります。
素晴らしい事実に気づかせてくれた客人に、心の中で感謝をささげます。
 サーニャさんはともかくエイラさんの逗留は、私にとってはっきり言って迷惑でしたが。今日ばかりはその巡り合わせを幸運と思わざるを得ません。

「な? 分かったロ? 私は別にやましい事はしてないんだから、もう勘弁してくれヨー」
「そうですねー。じゃーまー朝食ぐらいまでで」
「ナンデダヨー! 横暴ダゾソレ!!」

 ……ありがとう二人とも! 私、がんばります!




2.


(……い、行きましょうか……)

 時刻は午前一時。18世紀に作られた建物らしく、重々しい扉の前に私は立ちました。

 消灯時間も過ぎて、常夜灯の頼りない明かりが、廊下の石壁を照らしています。外を流れるネヴァ川を行き過ぎるはしけのエンジン音が、次第に遠ざかっていきます。静まり返った基地の中、自分の心臓の音だけが、やけにうるさく響いてきます。
 寝ぼけてる(という設定な)ので、普段の服装のままで、私はニパさんの部屋の前に立っていました。

「――」

 ニパさんは、もう眠っているのでしょうか。
 いざこの場に立ってみると、自分のしようとしている事が、急に怖くなってきます。
 ニパさんはベッドに潜り込んだ私を見て、驚くでしょうか。呆れるでしょうか。嫌そうな顔をして私をたたき出したりしないでしょうか。急にそんな事を考えてしまいます。
 お風呂に入って管野さんを寝かしつけて、邪魔になりそうなクルピンスキー中尉を外出させてエイラさんを縛り上げてと、我ながら恐ろしい程の行動力で事前準備をしてきましたが、いざニパさんと二人きりになった時に、思いをどれだけ伝えられるか、それに全く自信が持てません。
 鈍いニパさんは、私の意図に気付いてくれないかもしれません。部屋を間違ってる変な人だと思うかもしれません。それにもし、あの人に迷惑そうな顔をされたら、私は多分立ち直れません。

 でも。それでも――胸に手を当て、小さく深呼吸を三回。
 私はニパさんに、もっと私の事に目を向けてほしいのです。不器用で変に責任感が強くて、仲間思いでお人好しなあなた。そんなあなたに私が想いを寄せている、その事を少しでも意識して欲しいのです。

(――い、行きましょう)

 頑張れ、私。
 真鍮のドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けていきます。静まり返った部屋の中を、そっと覗き込みます。
 廊下よりも更に暗い、ニパさんの部屋。石造りの床の上に、廊下の明かりがゆっくりと伸びていきます。
細く開けた扉をくぐり、静かにドアを閉めました。
 静まりかえった部屋の中を、一歩、二歩足を進めます。薄く目を開いたまま、この人らしい飾り気のない部屋の中を、ゆっくりと歩いていきます。目標は月明りが漏れる窓辺。その傍に置かれたベッド。
 ――私は歩を進め、ベッドの傍で靴を脱ぎ――

 ――とさっ。
 ニパさんのベッドに倒れこみました。

「――」

 どきどき。どきどきどきどき。心臓が早鐘を打ちはじめます。
 とうとう、潜り込んでしまいました。痛いほどの沈黙の中で、息を潜め硬く目を閉じて、周りの様子をうかがいます。
 密室で二人きり。しかもベッドの上で。
 決して不埒なことを期待している訳ではないのですが(決して!)、今にも逃げたくなるほど程恥ずかしくなってきました。
 火照った顔をベッドに懸命に押し付けて隠します。手の中のシーツを固く握り締めます。
 不安と羞恥心とちょっとの期待が胸の中で渦を巻き、頭の中が真っ白になります。思考がまとまらなくて朝からシミュレーションを重ねてきた行動パターンが、まったく思い出せません。

(――い、いけませんね――)

 私はニパさんに、私の事を意識してもらいたくてここに来ているのですから、どうせなら私が寝ている事に気づいて欲しいほしいのですが、これではニパさんが目を覚ましたとして、何も出来ないに違いありません。
 落ち着きましょう。落ち着いて、考えてきたことを思い出さないと……。
 え、ええと……まず、ニパさんが目を覚ましたら、きっと『ど……どうしたの? 大尉』と、戸惑った声で聞くでしょう。そしたら私は――

『ど、どうしたの大尉? こんな夜中に』
『あ、ご、ごめんなさい……私ったらつい部屋を間違えて……』
『くす……そうなんだ。随分疲れてるみたい。大丈夫?』
『え、ええ。ごめんなさい。本当に……』
『いつも遅くまで働かせちゃってごめんね。私達のせいで……』
『い、いいんですよ……。ニパさん達が空に上がるためなら、そのくらい……』
『……。ほんとにごめん……。でも、私に手伝えることがあれば、言って欲しいのに……』
『いいんです。これが私の仕事ですから……』
『そ、そう……?』
『あ、あの。でも……。も、もし、お願いできるのなら……』
『うん』
『あ、あの……少しだけ……』
『うん』
『あの……だっこ……して欲しい、です……』
『え?』
『……い、いけませんか!?』
『え? そ、そうじゃないよ。ただ、かわいい事言うなって……』
『あ……。は、恥ずかしい事言わないでください……!』
『あはは。いいじゃない。可愛いんだから』
『……も、もう。ニパさん……』
『くす。おいで、サーシャ』
『は、はい……』

 きゃー!!!!
 も、もう! ニパさんたら!! いけませんよ! そ、そんな風にされたら私、私……!

(――はっ!)

 浮かんだ妄想にベッドの上でくねくね身悶えしそうになった所で、現実に戻りました。
 い、いけません。冷静になりましょう。たとえベッドに潜り込んだとしても、即こんなおめでたいイベントが発生する訳が無いじゃありませんか。い、いくら私が、こんな風にして欲しくても、ニパさんはこんなイケメンじゃありませんし……。
 それにこんな事を考えてる所をニパさんに見られたら、思い切り不審がられてしまいます。
 ……ニパさん見てませんよね? 見てませんよね?
 私は息を止め、再びニパさんの様子をうかがい――

「すーすー」

 規則正しい寝息が聞こえて、ほっと息をつきます。
 薄く目を開け、ニパさんに目を向けます。思いの外近くにニパさんの顔があることに驚きながら、その顔を見つめます。軽く開いた唇から漏れる安らかな呼吸。それに合わせてゆるく揺れるニパさんの肩と胸。

(――熟睡中、ですか)

 胸をなでおろしながら、少し残念な気持ち。
 なけなしの勇気を振り絞ってここに来た私にお構いなしに、安らかに眠り続けるニパさん。
 そりゃあ、さっき考えた様な、おめでたいイベントが発生するとは思ってませんけど(思いましたけど)、ニパさんに気付いてもらえない事には、何も始まりません。
 このまま眠っていては、私はただニパさんのベッドで眠っている、それ以上でも以下でもありません。それはそれで素晴らしい事なのですが、これではただニパさんの寝顔や吐息や匂いに興奮しているだけではありませんか。
 そんな事より私はニパさんに、もっと私の事に目を向けて欲しいのです。口には出せないこの想いを、少しでも分かって欲しいのです。

 ニパさんが着ているセーターの裾を、軽く引いて見ます。
 「ニパさん……」小さな声で、名前を呼んでみます。

「すーすー」
「…………」

 熟睡ですか。そうですか。

「……はぁっ」

 拍子抜けした気持ちで、全身の力を抜きます。
 私だって覚悟とか不安とか妄想とか、いろいろなものをはちきれんばかりに胸に収めてここに来たつもりなのに、なんなんでしょうね。これは。
 身勝手なのは分ってますけど、こんな時になっても鈍いんですから。
 私はこんなに胸を弾ませて、あなたの事を見ているんですよ。少しは、気付いてくれてもいいのに――。

「――えい」

 手を伸ばしてニパさんの鼻を軽くつまみ、ため息をひとつ。

「もうっ。鈍いニパさんは正座ですよ? ばか……」

 拗ねた私の言葉もどこ吹く風。鼻をふさがれたニパさんが、ふが、と口をあけます。
 その顔が可笑しくて、私は少し笑いました。

(……でも。こんなニパさんも可愛いですよね……)

 毛布から出ているニパさんの肩に、そっと毛布をかけ直しました。
 静かに眠るニパさんの寝顔を見つめます。月の光を透かして光る細い髪と、磁器のように滑らかな肌。普段この人が抱えている、諦めや焦りや自責といった危うさが拭い去られた、安らかな寝顔。
 そんなこの人の顔を見ているだけで、静かな喜びが私の中に満ちて行きます。こんなニパさんが見られただけでも、いい事なのかもしれません――。

「――ゆっくり休んでくださいね――」

 これ以上邪魔をせずに、帰りましょう。
 微笑みながら額の上で乱れているニパさんの前髪を、指先で払って整えます。

「――ふ」

 くすぐったそうに鼻を鳴らすニパさん。あまりにも無防備で、平和な寝顔。
 願うなら――あなたがずっと、こんな顔をしてすごせる日が来ます様に。私が少しでも、その力になれます様に。

「――ふ、ふぇ――」

 おやすみなさい、ニパさん。
 私は小声でそう言い、静かに起き上がろうとして――

「――えくしっ!」
「――!!」

 ――砲撃を受けた時の数倍の速さで伏せ!
 くしゃみをしたニパさんのせいで激しくベッドが揺れました。
 落ち着いていた心臓が私の中で暴れ始めます。
 起きた? ニパさん起きた?
 横向きの姿勢で寝たまま、目を閉じて息を殺します。全身を耳にして、ニパさんの様子を探ります。

「え? え? ええ?」

 ガタッ。数秒経って、ニパさんが毛布から飛び出して壁に張り付く騒々しい音。

「あ、あ、あのっ……! た、大尉……?」

 ニパさんの慌てきった声。

「た、大尉? 起きて。部屋、間違ってるよ」

 私の肩を掴んでゆさゆさと揺さぶるニパさん。

「――」
 
 それに対して私は何のリアクションも出来ないまま、寝たふりを続けます。顔から火を噴きそうになりながら、頑なに目を閉じ続けます。戸惑いと羞恥と緊張と期待。そんな気持ちが頭の中で荒れ狂い、どうしていいか分かりません。

「起きて。起きてってば、大尉? 大尉? 大尉?」

 ゆさゆさ。ゆさゆさゆさゆさ。
 始めはおそるおそる、という感じで私を揺さぶっていた手つきが、次第に乱暴な動きになっていきます。私を呼ぶ声が、次第に大きくなっていきます。

「――ど、どうしよう……」

 やがて、途方にくれた様にそう言って、ニパさんは手を止めました。そのまま、何も言いません。
 沈黙が、重くのしかかってきます。ニパさんは戸惑っているのでしょうか。怒っているのでしょうか。ひょっとして、呆れているのかもしれません。
 顔が見えない分、悪い想像がどんどん胸の中に広がっていきます。

 そのまま一時間にも、二時間にも感じられる時間が過ぎ――やがて、くすっと笑い声。

「――風邪、引くよ」

 ふわり、と私の上に毛布がかけられました。
 付けたままだった私のカチューシャをそっと取り、サイドボードに置くニパさん。

「疲れてんだな……」

 そしてニパさんが、毛布の中に潜り込んで来ました。一人分の毛布の中で、窮屈そうに私の方に身を寄せます。

「――いつもありがとね、大尉」

 カチューシャを外したせいで頬にかかった髪を、指先で軽く触れながらどけてくれるニパさん。
 その感触がくすぐったくて、ニパさんの傍で首をすくめます。それがおかしかったのか、ニパさんはまたクスリと笑いました。

 そのまま、静かに時間が流れていきます。ニパさんの呼吸に合わせて上下する胸の動きが伝わってきます。
 息がかかるほど近くに、ニパさんがいます。
 私がここにいる事に気づいて、それを受け入れてくれている。その事がたまらなく恥ずかしくて、そして嬉しい――。

 気付いて、ませんよね。
 私が恥ずかしさと後ろめたさで、消え入りそうな気持ちでいる事を。
 気付いて、くれていますか?
 私が幸福にはちきれそうな胸で、あなたがの傍にいられる事を喜んでいる事を。
 矛盾した気持ちが頭の中で渦巻いて。でもそれはどちらも私にとって幸福で。

 毛布の中で伝わってくるあなたの温もり。しんと静まり返った夜の中で、聞こえてくるあなたの鼓動。
「う……ん」
 少しだけ甘えてみたくなって、ニパさんの方に身を寄せると、額と手先がとん、とニパさんの腕に触れました。
「――なんだよもう」
 呆れたような、でもどこか楽しそうなニパさんの声。
 その声が嬉しくて、ニパさんの腕に額をすりすりとこすりつけると、あやすように優しく私の肩をたたいてくれるニパさん。私の上にかけられた毛布の具合をもう一度確かめてくれるあなたの手。

(……ニパさん……)

 戸惑いが去り、静かな幸せが胸の中に満ちていきます。
 このまま夜が明けなければいいのに。そんな身勝手な願いを胸に抱きます。
 私はきっと、これから何度も、この夜のことを思い出すでしょう。その度に、きっと今この胸に満ちている幸せは、きっと私を慰め、励ましてくれるでしょう。
 こんなにも幸せな時間をくれたあなたのためなら、私はもう、何も怖くはありません。隊長の無茶振りも、底をつく予算も、厳しさを増す戦況も、もう怖くはありません。
 あなたのためなら、私はきっとどんな事でも出来るでしょう。どんな苦境であっても私はきっと恐れずに進んでいk――

「こんばんわー! 寝ぼけているクルピンスキーでーす!!」
「――!!」
「え……な、な、何!?」

 幸せの絶頂にある私の意識を冷ますように、大きな声が部屋の中に響き渡りました。
 思わずニパさんの腕にしがみついた私の耳に、どかどかと部屋に入り込んでくる足音。

「な……なに……? ちょっと。クルピンスキー中尉までなんだよ!」
「うん。外出したつもりだったけど、なんだか落ち着けなくてね。自分の部屋に戻って寝ようと思ったんだけど、なんで私はニパ君の部屋にいるんだろう?」
「そうなんだ。部屋間違ってるよ」
「うんそうだね。寝ぼけているからしょうがないよね――」

 ぴき。私の眉が吊り上ります。
 寝ぼけている事をあまりにも堂々と主張しながら乱入してきたクルピンスキー中尉。中尉もサーニャさんたちの事を聞きつけて、ここに来たに違いありません。

「……なんだよもう中尉まで。ほら、目が覚めたのならもう帰って」
「――でもね? 考えてみるとさ不思議じゃないか。寝ぼけて意識が朦朧としている時に、ふっとニパ君の部屋に足が向かうなんて」
「……はぁ?」
「――思うんだ。疲れていてつらいとき、ふっと足が向く相手。無意識に求めているかけがえのない相手。 私にとってそれが、ニパ君だったんじゃないかって――」
「ちょ、ちょっと、何を言ってんのか全然わかんないよ! 中尉!」

 ずかずかと歩み寄ってくる足音。ニパさんはベッドの上で後退しながら、私を中尉から庇うように胸に抱き寄せます。
(あ……ニパさん優しい……)
 抱きかかえられた感触に、思わずぽーっとなりかけましたが、状況は絶望的です。

「――うん。まぁそれはともかく。
 ほら新しく来たサーニャちゃんがさ、寝ぼけてエイラ君のベッドに入り込んでくるって聞いて思ったんだ。
 ひょっとして、寝ぼけているなら誰の寝室に踏み込んでもOKなんじゃないかって。
 驚いたよ。頬を叩かれて目を覚まされた気分だよ。なんで今まで気づかなかったんだろう?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。何で靴脱いでるんだよ」
「――すごいよね、オラ魔女」
「ベッドに上がってくんなぁあ!」
 私を抱えたまま、ニパさんは迫り来る中尉の前から退却します。
「……もう、いい加減にしてよ。大尉が疲れて寝てるんだからさ!」
「つれないなーニパ君は。熊さんが良くて私が駄目って事はないだろ?」
「違うだろ! 大体中尉はばっちり起きてるじゃないか! 出てけ!」

 ……に、ニパさん頑張って!!
 自分の事を棚に上げながら、ニパさんの服を握り締めてそう祈りますが、勝敗の行方はあまりにも明らかです。
 深夜のせいか押さえた声でしゃべるニパさん。片や大声で話しながらぐいぐいと迫ってくる中尉。ただでさえ押しが強く口のうまい中尉に、ニパさんが勝てるはずがありません。

「ちょ、ちょっと。寄ってこないでよ。大尉が挟まってるから! つぶれちゃうから」
「こういうの扶桑では『川の字』っていうんだってね。麗しい文化だよねぇうんうん」
「あの字はそんなに密着してないだろ!! やめてってば」
「何を言ってるんだい? 密着していた方が、ずっと親密な関係なんだよ?」
「人の話を聞いてってば――!」
「――。」

 もう――勘弁なりません。

「……クルピンスキー中尉……」

 がっし。
 ニパさんの首に回されようとしていた、クルピンスキー中尉の手首を握り締めました。ゆっくりと顔を挙げ、中尉の顔をにらみつけます。

「……ほ、ほらニパ君、熊さんも、三人一緒に寝ようって……」
「言ってませんよ」
「そ、そうかなー?」
「……」
「でもこんなに……力強く手を握り締めて……こんなに情熱的なお誘いだなんて……」
「――クルピンスキー中尉。」
 冷たい声で名前を呼ぶと、中尉は危険を察したのか、ずざっと30cmぐらい私から飛び退きます。
「……どきどきしちゃうな……はは……」
「クルピンスキー中尉……あなた……」

 逃げ腰になりながら、それでもわーわーわめくクルピンスキー中尉。
 私はそんな中尉の腕をねじり上げ、

「……あなた思いっきり起きてるじゃないですかー!!!」

 綺麗に関節を極めていたのでした。






3.


 ……くすん。

 オイルの匂いが目に染みて、目尻をぬぐいました。
 深々と冷えていくハンガーの中、手元を照らす白熱灯の光を頼りに、エンジンオイルを給油口の中に注ぎ込みます。
オイルのレベル計がFULLを指すのを確認して、ため息と共にキャップを閉めました。

 クルピンスキー中尉の腕をねじりあげ、逃げる様にニパさんの部屋を飛び出した私は、ハンガーに戻ってストライカーをいじり始めていました。

(……寝たふりをしていたのは、明らかにバレてますよね……)

 先程の事を思い出し、頭を抱えたくなります。
 私超はっきり、しゃべってましたもんね。中尉の様子も、ばっちり分かってる様な事言ってましたもんね。
 明日の朝あなたに会う時、どんな顔をしていいのか分かりません。あなたがどんな顔をするのか、それを想像したくありません。
 夜はますます更けていき、オラーシャの冬の寒さが私の肌を刺しますが、手を止めてしまえば悪いことばかり考えてしまいそうで、私は作業を続けます。眠気と疲れが押し寄せてきますが、部屋に戻って休む気にはなりません。
 いいんです。部屋に帰っても、きっと落ち込むだけです。
 ここにいれば落ち着けるんですから。ここが私の居場所ですから。
 ほら、見てください。純度の高いカールスラント製エンジンオイルの、この澄み切った色。見ているだけで心が洗われる様じゃありませんか。

 いいんです。嫌われても仕方ないんです。私はニパさんの人の好さに付け込んで、ベッドに潜り込むような子なんですから。
 もういいんです。ニパさんに嫌われても。オイルと旋盤と溶接の火花が、私の恋人なんですから。


「あの……」
 そんな風にいじけまくっていた私は、後ろからニパさんに声をかけられても、振り返る事ができませんでした。
 黙っていると、ニパさんは気まずそうに言葉を続けました。
「た、大尉……あのさ……」
「……何か御用ですか? ニパさん」
「いや……急に飛び出したから、気になって……」
「――」
 本当は追いかけてきてくれた事がうれしいくせに、いじいじと手を動かし続ける、どこまでも可愛くない私。
そんな私の様子に気圧されたのか、ニパさんも黙り込んでしまいます。その沈黙が怖くて、私は口を開きました。
「……。軽蔑、しましたよね……」
「何……言ってるの?」
「――」
「そ、そりゃ、起きたら大尉が私のベッドで寝ていたのは驚いたけど……き、気にする事ないって」
 うろたえながら、私をフォローしようとしてくれるニパさん。それに対して、私は何も言い返さず、依怙地になって手だけを動かし続けます。
 こんな自分を、ニパさんに同情されたくありません。私達の間が明日から気まずくならない様に、配慮して言ってくれているのかもしれませんが、それだって私にとっては、とても辛いんです。

 あなたの事が好きなんですから。あなたの好意が、同情でも配慮でもないあなたの気持ちが、私は欲しかったんですから。
 私は口をつぐみ続けます。ニパさんの言葉は続きます。

「前線に行ったら嫌でも狭い場所で寝なきゃいけないんだろ? 私もスオムスでそうしてたし――」
「――」
「それにあんなにいつも疲れてるんだから、これくらい気にする事じゃないよ、ほんとに」
「――」
「もう――なんで黙ってるのさ?」
 いろいろ言っても何も言わない私に対して、とうとうニパさんのいらだった声。
「――」
 怒ってくれていい。そして静かに立ち去って欲しい。そうされるのが今の私にはふさわしいんですから。胸をずきずきと痛ませながら、続くニパさんの言葉を待ちます。

「なんだよ……寝ぼけて部屋を間違うぐらいで、そんなに落ち込まなくてもいいのに……」
「――はい?」
 今あなた、なんとおっしゃいましたか?
 寝たふりしていた事をなじられる、と覚悟していた所に、ずれたことを言われて、素っ頓狂な声が出ました。

「え? えっと……?」
 振り返ると、ニパさんの不満そうな顔。
「大尉はあんな風に疲れるまで働いて、私達を飛ばせてくれるんだろ? そんな人を軽蔑するわけないだろ。
 なのになんで、そんな事言うんだよ」
「――あ、あの……ニパさん?」
 えーと。これは、呆れていいところですよね。

 私が寝たふりをしていた事に、まったく気付いていないニパさん。この人の鈍感も、ここまで来ると一つの芸です。

「あ。いえ。でも、あのー、ですね……」
「もう……。寝ぼけた位でそんなに落ち込んでさ。大尉って結構危なっかしいよね……」
「そ、それはですね……」
「いつもの怖い大尉はどこ行っちゃったんだよ」
「べ……別に元気はなくしてません! それに、別に怖くしている訳ではありませんから!」
「――あはは。そうそう。そうやって怒ってるのが大尉らしいよ」
「な、何を言うんですか……」
 いつもの調子に戻った私を見て、ニパさんは楽しそうに笑います。
「――これ、忘れ物」
「あ……」
 そしてニパさんは、先程忘れていった私のカチューシャを差し出しました。それを付けようとして私の前髪を、指でかき分けようとします。
「だ、大丈夫です。そ、それにもう休みますからっ……!」
 その指先がくすぐったくて、きっと真っ赤になっている顔を見られるのが恥ずかしくて、カチューシャを
つかんで顔をそらしました。
 そう? と言って、にこにこしながら私を見ているニパさん。
 カチューシャを握りしめながら、収まらない胸のどきどき。

(――も、もう。お人好しなんですから……)

 結局ニパさんは何も気付いてない訳ですけど。私を意識してくれる訳ではないですけど。にぶちんなあなたの前で、こんなにも幸せな私。
 今夜はよく眠れそう。そう思いながら、微笑むニパさんにようやく笑顔を返しました。


おわり

----

で、反省。ほんとはぶちこわしなオチを付けたかったんだけど、調子ががらっと変わるので断念。
ギャグは書いてて楽しいんだけど、百合百合なのも好きで、その辺をうまく統合できる話のもってき方はないのかなぁと思います。
片方に徹しちゃうのが正解かも知れませんけどね。
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