ストライクウィッチーズのSSを書いてます。 その他百合中心で書くつもりですが、普通の日記も書くかも。
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SS「Needled 24/7」 (アレクサンドラ×ニパ×エイラ×サーニャ, 33kB)
ニパ誕生日おめでとう! いえー! エルマ誕も過ぎたけどいえー!
と言うわけで一度やってみたかったクマニパイラーニャ、ヨロイネン悪夢の一夜。

エイラが最低な事になってるのとオラ魔女が怖いのでエイラーニャな方は気をつけてください。

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Needled 24/7



1.


 どうしちゃったんだろう。私。

「どしたんだイッル。風邪か?」
「……ちちちちチガウ。多分」

 暖炉にかじりつく私を、ニパが怪訝そうに見ている。

 全身が震える。露出した鼻先が痛い。手足の先を襲う冷気に指はかじかみ、身体の芯をなぶる寒さが、私の歯の根を躍らせる。
 冬のスオムスの夜は長い。そして寒い。それはここ、ヨロイネンの観測所でも同じ。
 丸太を組んだ壁に開いた、小さな窓から外をうかがう。すでに陽は落ち、暗い外は猛吹雪。
 同じように着膨れたままのサーニャと並んで、暖炉で踊る炎を見つめた。

 スオムスとオラーシャの間を行き来する私達は、最近よくこのヨロイネンの観測所に立ち寄っている。ちょうどいい休憩場所になるし、ニパの顔を見られて時々イタズラしたり、今日みたいに悪天候を避けて避難したりと、ありがたい場所になってるんだけど。

「なぁ、今年、いつもより寒くナイカ?」
「そうかー? いつもどおりだと思うけどな」

 そう、寒いんだ。異常に。信じられない位に。
 マフラー手袋3層重ね着。もちろんズボンは重ね履き。吹雪の中からここに逃げ込んでだいぶ経つのに、それでも私は震えてる。生まれてこの方15年間、スオムスの冬を毎年乗り切ってきたこの私が――。

「どのぐらい続くんだヨ? この吹雪」
「予報でも長引きそうしか言ってなかったしなぁ……一週間ぐらい続くんじゃないか?」
 ニパが困ったような顔で残酷に宣言する。
「うう……っ」
 絶望的な思いで頭を抱える。これから続く一週間。24時間週7日。本気を出したスオムスの冬に、私は怯える事になるのでしょうか。
「ははーん」
 そんな私の様子に気づいたのか、ニパが意地悪く笑いながら立ち上がる。ゆっくりと私の元に歩み寄り、私の肩に手を回した。
「イッル、お前さー……」
「……ナンダヨ」
「お前さ……ひょっとして、ブリタニアにいたせいで、」
「……し、知らないヨ……」
「寒さに弱くなったんだろー!!」
「知らないヨ!!」

 そんな訳ない。私が寒さに弱いなんてありえない。スオムス生まれのスオムス育ち。生まれた頃から空気の様に寒さに慣れ親しんできたこの私が……!
 そんな私の必死な叫びを聞いて、ニパが一瞬黙り込み――

「ぶはははははは! なんだよそれ! だっせー!!」

 爆笑しやがった。

「笑うなよー! しょうがないだろー!」
「だっておま……ほんとか? あははははは!」

 余程おかしいのか、ニパは私の頭を抱えたまま、私の首筋にふーっと息を吹きかける。冷たさに私が身をすくめるのを見て、ニパはまたけたけたと笑い声を立てて、

 ――ごん。

「何をやってるんですか、あなた方は」

 巨大なスパナに後頭部をどやされる。

「大尉……?」

 いたいじゃないか。後頭部をさすりながら、ニパが振り返る。その視線の先には、やわらかくカールした長い金髪。暗い色調のオラーシャ陸軍の制服。
 同じくこの観測所の客になっているポクルイーシキン大尉が、暖炉にかじりつく私の顔を見下ろしていた。

 ポクルイーシキン大尉とは、今日顔を合わせたばかりだ。
 私達が501にいる間、ニパが応援に行っていた部隊の指揮官であり、なんでも今度ニパがその部隊に正式に派遣される事になるらしく、その手続きや調整のためにミッケリの司令部に喚ばれ、その帰り道にここに立ち寄ったまま吹雪に閉じ込められて身動きが取れなくなったらしい。

「ここ、狭いんですからあまり騒がしくしないでくださいね。仲がいいのは結構ですけど」

 そのせいだか何だか知らないけど、私と顔を合わせて以来、大尉はずっと機嫌が悪そうだ。

「大体あなた方、こんな吹雪の中を飛んで来るなんて危険過ぎます。私達ウィッチは、ネウロイの危険だけに気を配っていればいいんじゃないんですよ?」
「そう言わないでよ大尉。イッルにだって多分事情があるんだろうしさ」
「それは、分かってますけど……」
 大尉はぷくっと頬を膨らませて、私を弁護したニパの事を睨む。
「大体大尉だって、イッルに会ってみたいって言ってたじゃないか」
「そりゃ確かに、ストライカーを壊さなくて整備も出来て、ちょうど今ヒマそうにしてるって言うから、一度会ってみたいとは思ってましたけど……だからってこんな時に……」
「……」
 ヒマ。ひどい言われようだ。サーニャの両親を探しているんだから、私は別に暇じゃないぞ。

 はー。大尉は長椅子に腰掛けて足を組み、つまらなさそうにため息をついた。じろり。横目で私の事を睨む。
「――あの、なんですカ?」
「――いえ」
 何だかさっきから、やたら敵意を向けられてそうな気がする――邪魔なのか? 私。


 何となく居心地の悪い空気。そんな空気を読めないニパは、再び私の事を嬉しそうに眺め始める。
「しかし、イッルがそんな風に縮こまってるなんて珍しいなー。お前のそんな所、見た事なかったよ」
「う、うるさいナー。こんなの、すぐに慣れるッテ」
 ニヤニヤ顔のニパに向かって言い返す。早くこの寒さに慣れなくちゃ困る。このままだと冬の間オラーシャにもいけずにサーニャの手伝いも出来ないし、何よりサーニャの前でぶるぶる震え続けるのは格好悪い。
 それに、ただ寒い事だけが問題じゃないんだ。私この寒さに負けるって事は、耐寒性に定評のあるスオミとしてのプライドの問題でもあり、さらに言うなら「北欧娘」という私のアイデンティティの危機だ。寒さに弱いスオ娘なんて聞いたことないだろ? それなのにこんな有様、自分でも認めたくない。
 私の初期設定だった筈の「北欧の不思議ちゃん」。それが今消滅の危機を迎えている。「エイラの不思議ちゃんって死に設定だよな」といわれて久しい今、私のキャラを支えているのは「繊細で透明な可憐さを持つ北欧娘」だけなのに。それさえ無くしたら私は何だ! ただのヘタレじゃないか!
 この先やっていくには、ルッキーニのキャラを目指すしかないのかも……。

 将来の事を考えてしまって暗くなる私の傍で、サーニャがくちゅんとくしゃみをした。
「大丈夫かサーニャ? スオムス寒いダロ」
「寒さには、慣れてるけど……」
「サーニャ、こっち座れこっち」
 ぶるっと震えるサーニャに、暖炉に近い場所を譲って座り直す。毛布に包まって座り込むサーニャ。
「確かにここの暖房の性能は、十分とは言えませんよね……」
 サーニャの様子を見て、ポクルイーシキン大尉までもが呟く。大尉は寒さを思い出したかのように、腕をすくめて微かに震える。
(――ん?)
 ちょっと待て。ひょっとしてこれ、私一人が震えてるんじゃないじゃないか?
 ニパの奴爆笑しやがって。これは単に私が寒さに弱くなっただけじゃなくて、純粋に今日は寒いんじゃ――。

「あーっはっはっはっは!」

 そう思った時、甲高い笑い声が狭い室内に響いた。こんな気分の時に聞くとイラッとする、無駄に元気な声。室温すら零下になりそうな気温の中で全員が凍えて震えている中、やたら元気な奴。
「何だよみんなだらしないなー。これでもいつもより強めに暖房かけてるんだぞー」
 みんなの呆れた視線の先で、わーれーわーれーヴァー、と喉をチョップしながら扇風機と戯れているニパ。
「……」
 15年生きててやっと気づいた。スオムス人ちょっとおかしい。
「スオムスの人って、みんなああなんですか?」
「いや、違ウ。多分」
 スオミの名誉にかけて、おかしいのは多分こいつ。

「ニパー。お前なんでそんな元気ナンダヨー」
「なんでって?」
 呆れながらたずねると、ニパは立ち上がった。ずいっと私の方に顔を寄せて、
「忘れたのか? 私は何度も冬将軍とタイマン張って生還してきた女なんだぞ」
 意味不明な例えをして、得意げにふふんと笑う。
「はぁ?」
「雪濠の作り方から火の起こし方。凍傷の予防法から食料の調達。寒さに対抗する全ての知識を駆使して、私は冬を生き抜いてきた。その事を忘れてもらっちゃ困るなー、イッル」
 そりゃその位、スオムスのウィッチなら誰だって訓練で習うけど、こいつの言葉には重みがある。
 被弾やストライカーの故障によって無人の原野に投げ出され、そして何度も帰ってきた奴。どんな状況でも必ず生きて帰ってきた不屈の生還者――考えれてみば、こいつも成長したよな。変な方向に。
 ニパは
「雪原に、氷上に。森の中にそしてネウロイの勢力圏内に。どんな所に単身で放り出されても帰ってきた私が、こんな寒さで参るわけないだろ? つまり――」
 私の感慨をよそに、調子付いているのか、それとも単に引っ込みがつかなくなっているのか、ニパは拳を握り締めて声を張り上げる。
「――このスオムス空軍で、最も冬の遭難に慣れたウィッチである私にとって、こんな寒さなんて何でもないよ!」
「おおー……」
 なんという、説得力。その勢いに飲まれたサーニャが思わずぱちぱちと拍手をしている。
「ふふ……、そうだろ、ふふ……」
 冬の遭難の仕方には、私はちょっとうるさいからな……。俯いて笑うニパの目に、きらりと涙が光る。
「誇らしげに言う事ですか」
「ううっ……大尉。私だって……私だって……好きで遭難してた訳じゃないんだー……」
 大尉の冷静な突込みを食らって、ニパは大尉に寄りかかって泣き崩れた。

--

「まー本当の所を言うと、あれだよ」
 ややあってニパは顔を上げ、からっとした笑顔を全員に向けた。
「私は人より体温が高いからな、寒さには強いんだ」
「そうだったっけ……」
 言われてみれば、そうだった気がする。なんでもこいつの固有魔法の副作用だとか。

 こいつの固有魔法、超回復体質は治癒魔法の一種だけど、治癒魔法っていうのは念動力によって傷を物理的に補修すると同時に、新陳代謝を促進させて組織を修復する魔法だ。そのため、魔法が働く部位には体内で起こる代謝に伴って熱が発生する。
 おまけにこいつの固有魔法は魔法力が体内で循環するタイプだ。だから自分にしか効果がない代わりに、極めて魔法力の消耗が少ない。だから一度発動した治癒魔法は、極めて長い期間こいつの体内に留まり、効果を発揮し続ける。それはもはや魔法ではなく、体質と呼んでしまっていい程に。つまり、常に微量の治癒魔法が発動している状態にあるこいつは、体温が高い――とか、そんな理屈だった。

「そういえば、ニパさんの魔法も治癒魔法でしたからね……」
 ポクルイーシキン大尉も思い当たる節があるのか、納得した顔で呟き、ニパの白い手を取って持ち上げた。自分の両側の頬に代わる代わる押し当て、へぇ、と呟いて目を閉じる。
「……」
「あ、あの。大尉?」
 ニパの手を頬に押し付けたまま、じっとしている大尉。

「ナニシテンダヨ」
「え? あ、ああ!」
 私が思わず突っ込むと、大尉は目を開けてニパの顔を見、目がアウト慌ててその手を振り払う。
「じゃ、じゃあもし、外に用があったら、ニパさんに動いてもらえばいいですね!」
 大尉は頬を赤く染めながら、取り繕うようにそう言った。






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2.


「ただいまー」
 体中雪まみれのニパが、ドアを潜って戻ってくる。テーブルを挟んで木の長椅子に座った私と大尉がそれを出迎えた。
「どこへ行ってたんですか? ニパさん」
「配管の水抜きとボイラーの給油。吹雪が長引きそうだから、出来るうちにしておこうと思って……」
「こんな時間にそんな事までしなくていいですよ。夜中に外に出るなんて自殺行為です」
「そ、そうかな? ごめん」
「もう……。ほら、雪積もってる」
 ポクルイーシキン大尉は、ニパの頭に手を伸ばしてそこに積もった雪を払い落とす。困った顔をしながら、そのまま頭をぬぐわれるニパ。どうでもいいからドア閉めろ。

 夜が更けるにつれ、気温は刻一刻と低下していた。身体に噛み付いてくるような寒さが、この狭い観測所に君臨している。
 限界までボイラーの火力を高め、そこで沸かした温水を巡らせているヒーターも窓から入り込む冷気をわずかに暖めるに過ぎず、暖炉の炎までもがこの寒さに怯えているかの様に頼りなく揺れている。

 大尉はニパの身体についた雪を払い落とすと、テーブルの上に広げられた観測所の配管図を見始める。ニパは頭を拭きながら、私の隣に座った。
 台所に行っていたサーニャが戻ってきて、どうぞ、と言って大尉の傍に湯気の立つコーヒーカップを置いた。
「――ありがとう、サーニャさん」
「いえ――あの、何をしているんですか?」
「暖房の効率を上げる方法を考えているんです。今は暖房用の温水が余計な部屋にまで回って、そこを温めているから、まずその温水の流れを止めないといけませんね」
「はぁ……」
「でもここで快適に過ごすには、それだけじゃ足りません。ヒーターの移設と配管の引き直しが必要になります。例えば外気温をマイナス35℃と見積もって、壁の断熱効果とこの形式のヒーターの伝熱効率を考えると室温を20℃付近まで持っていくには――」
 サーニャに向かって語りながら、メモの上にペンを走らせてがりがりと計算を始める大尉。コーヒーそっちのけで、図面から配管の長さを計り、ボイラーの仕様書とにらめっこしながら、大尉は計算を続ける。
 サーニャはそんな大尉を見て困ったように笑い、私とニパの分のコーヒーを取りに台所へ戻っていく。私はニパと並んで、計算に没頭する大尉を眺める。

「何か、めんどくさい事やってるナー、この人」
「大尉は好きなんだよ、こういうの」
「ふぅん」

 まー好きなら別にいいんだけどさ。やり方がいちいち正攻法って言うか、なんかまどろっこしい。大尉に向かって声をかける。

「なー大尉。暖まりたいなら、もっと他の方法があるんじゃナイカ?」
「……え? 何か考えがあるんですか?」
 大尉は顔を上げた。
「そんなめんどくさい事しなくてもさ、要は寒ささえしのげればいいんダロ?」
「……そう、ですけど」
「熱源ならさ、他にもあるじゃナイカ」
「――え?」
 大尉は私の言葉の意味を感づいたのか、ニパにちらりと視線を走らせる。
「あ……」
「大尉だってさっきやろうとしたダロ?」
「……な、ななな、何を考えてるんですか! あなたは!」
「?」
 ぼっ、と顔を赤らめさせてうろたえる大尉と、何も気づいていないニパ。

「え? え? 何? 話が見えないんだけど。イッル」
「んー? 言った通りだって」
 顔に?が浮かんだままの、ニパに向かって語りかける。
「熱源はヒーターと暖炉のほかに、もう一つあるんダナ。ひひひ」
「……な、なんだよ」
 にやぁっと笑うと、突然ニパが腰を浮かせて私から5センチ離れる。
「そーれーはー」
 ――あ、気づいたなこいつ。私が何をするか分かったよね君は。
 気づいたなら……それに応えるのが礼儀ってもんなんだな!

「人肌ー!!」

 がばぁ。ニパの身体に覆いかぶさり、椅子の上に押し倒す。
「お、おい! 何すんだよ!」
「ふひひひ。あーなるほどー。お前子供体温なんだなー」
 セーターの上からニパの身体にしがみつくと、じんわりと伝わってくるニパの体温。確かにこれはあったかい。
「止めろってイッル! 放せ! しがみ付くなー!」
 私の下で激しく暴れるニパに構わず、さらに暖を求めてセーターの下から手を突っ込んだ。
「ひゃっ……つめた……! イッルのバカッ! 変な触り方するな……ぁ」」
「ひひひひひ。こんな所じゃ叫んでも誰も助けに来ないゾー」
 顔を真っ赤にして暴れるニパを見ながら、調子に乗ってセーターの下からニパの胸に手を伸ばすと――
「――来ますよ」
 ――恐ろしく冷えた声が私を呼んだ。続いてごとん、となにやら重いものをテーブルの下から引きずり出してくる音。
「エイラさん、いえ。ユーティライネン少尉」
 言葉は丁寧に、にこやかな笑顔で、でもテーブルの下から巨大なスパナを引きずり出しながら、ポクルイーシキン大尉が立ち上がった。

「――502(うち)の隊員に、そういう狼藉は止めていただけませんでしょうか?」
「ナンダヨー。昔から私とニパの間じゃこのくらい当たり前だったんダゾ。それにこいつはまだスオムス空軍ダシナ」
「ちょっと待てイッル! 押し倒して抱きつくのがいつ当たり前になったんだよ!」
「なっ……」
 大尉は絶句してよろめくが、すぐにスパナを支えに立ち上がる。

「で、でもこれからは、私の指揮下に入るわけですから。
 そのですね、部隊には年端も行かない小さなウィッチもいますので、公序良俗を乱すような悪癖をニパさんが覚えてくるのは、隊の風紀上ちょっと……」
 丁寧な口調でいいながら、スパナを持ち上げて振りかぶる。

「お、おい――。イッル止めろ。あの人怒らすとマジ怖いから。な?」
「んーそうかー? でももう少しー」
 青ざめた顔で私を押しのけようと、必死に下から突き上げるニパ。二人に構わず私はもう一度ニパの胸に顔をうずめようとして、

「……エイラ」
 じゅうっ。
「あちちちうあわあちちち!」
 首筋に灼熱の塊を押し付けられて私は跳ね上がる。サーニャがコーヒーのポットを手にしたまま、私とニパを見つめている。
「あ、あの……サーニャ……?」
 ひりひりと痛む首筋をさすりながら、サーニャに話しかける・
「……み、見テタ?」
「うん。コーヒー、入ったから、飲んで」
「そ、そうナンダ。でもこれ熱湯……」
「そうだよ。暖かいでしょ?」
「う、ウン」
 サーニャはこぽこぽとコーヒーをカップに注ぐ。まだひりひりする首筋を押さえながらそれを受け取ると、サーニャはにっこりと笑った。
「ニパさんに変な事しちゃ駄目よ、エイラ」
「……」
 そう言い残して、サーニャはすたすたと私から離れていく。
「さ、さーにゃー……」
「言われちゃったぞ、イッル」
 下りろよ。ぶすっとしたニパの声に従って、ニパの上から離れた。サーニャは先程まで大尉が座っていた場所に腰掛け、ニコニコしながら私を見ている。その視線がとても痛い。
「ううっ……」
 頭を抱えた私の傍に大尉が近づく。
 大尉は寝転んだままのニパの首根っこをつかんで立ち上がらせた。
「ニパさん……」
「え? あ、何?」
 強制的に立たされて目を白黒させているニパに向かって、大尉は命じる。
「正座です。」
「え?」
「正座。」
「あの……私、何もしてないけど……」
「しました」
 断言する大尉。
「あの……何を……」
「分かりませんか?」
「ええっと……」
 大尉とニパは数秒間見詰め合い、
「……な、なんでいつも私ばっかり」
 ニパが折れた。椅子の隣の床に立ち、ゆっくりと膝を折る。そろえた膝に手を載せて背筋をぴんと伸ばし、年季の入った綺麗な正座。
「え……あの、大尉?」
 そして大尉はニパの膝上に、無言で腰を下ろした。ニパの身体にもたれて、大尉は満足そうに目を閉じる。
「――ニパさんは、ここで暖房です」
「え……暖房って何だよ……あの、大尉?」
 真っ赤になってあのあの、とうろたえてるニパと、そのニパに悠々ともたれる大尉。

(――ナンダヨ。)

 それさっきまで私がしてたのと大体同じじゃないか。人のことさんざにっといて結局ニパで暖まってるじゃないか。
 ニパもニパだよ。なんで大尉はよくて私は駄目なんだよ。言われただけでおとなしく正座したりして、お前飼い慣らされてないか?
 なんだか気分が悪い。もやもやした気分を感じながら、私は立ち上がる。

「あ……どこ行くんだよ、イッル」
「エイラ……?」
「寝ル。いつもの部屋、使っていいだろ?」
「いいけどさ。寒いぞ、他の部屋」
「別にいいダロ。私はもう眠いんだ」
「……なんだよそれ」
「サーニャも、寒かったらニパに引っ付くといいカラナ。風邪引いたら大変だしサ」

 まだ何か言いたげなニパとサーニャ。余裕の表情でニパを占拠している大尉。
 そんなみんなの姿に一瞥をくれると、私は部屋を後にした。


--


「うー。寒」
 ぶるるるるっ。部屋を出て二歩歩いたところで震え上がる。
 なんとなく、の勢いで部屋を飛び出してきたけれど、廊下はさらに酷寒の世界だった。さっきまで私が居た部屋は、そりゃあもう寒かったけれど、暖炉や暖房がある分ましだ。ここは本気で凍死の可能性がある。
 気を紛らわすためにふらふらするにしても、この寒さを何とかしないと生命が危ない。私は考えを巡らせ――

(ソウダヨ!)

 ――ある素晴らしい考えに思い当たる。

(なんでみんな気づかないかなー)

 顔がにやついて来る。記憶を頼りに、ある所を目指して廊下を歩き出す。
 みんな忘れてる。大尉やニパに頼らなくてもこの状況を切り抜ける画期的な手を。私達ウィッチがいつも、地上なんか比較にならない低温の世界を飛んでいる事を。

 ハンガーになっているガレージの扉を押し開く。暗がりの中に鈍く光る全員分のストライカーと、起動用のユニット。

 そう。気温の低い高高度の環境にも耐えられる様に、ストライカーは増幅された魔力を防寒にも使用している。ストライカーを作動させている限り、寒さは私達に近寄る事が出来ない。
 確かにずっとホバリングしたまま生活するのは見た目的に大変面白い事になりそうだし、それに魔力が切れたら暖房は終わりだけど、そうなったら布団に包まって寝ればいい。
 つまり、ストライカー(暖房)→布団(睡眠)→ストライカー(暖房)→布団(睡眠)→ストライカー……、の無限ループ。これでこの寒さがどんなに長引こうと、私達は平然と過ごせるじゃないか!

(ひひ。やっぱり私の考えは、みんなの一歩先を行ってるんだな)

 素晴らしいアイデア。さすが私。胸を覆っていたもやもやが晴れていくのを感じる。
 手袋をつけ、鼻歌を歌いながら、私のメルスが起動ユニットにセットされている事を確認する。起動ユニットの電源接続と、燃料が残っている事を確認する。そして私はユニットにキーを突っ込んで回し――

「アレ?」

 動かない。
 キーを抜こうとすると、キーに張り付いた手袋が私の手から脱げて落ちた。

 ――ひょっとして、完全に凍ってマセンカ?

 私の望みが潰えるのを待っていたかのように、四方から寒気がどっと押し寄せてきた。






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3.



「ニぃぃぃパぁぁぁああ!!」
「うわぁっ!」

 風が吹き込むハンガーで半ば凍りついた制服と睫毛と手足。吐いた息のせいで白く霜の吹いた前髪。そんな私の姿を見たニパが、短く鋭い悲鳴を上げる。

「どこ行ってたんだお前! どうしたんだよその格好!」
 床に座ってポクルイーシキン大尉に寄りかかられながら、居心地悪そうに正座しているニパ。その姿に向かって、私は殺到する。

「体温分けろニパァああ!」
 もうだめだ我慢できねぇ。
 がばふ。ニパにタックルをかけて、床の上に引きずり倒す。

「ひゃ……つめた……!」
「うー……」
 ぐりぐりぐりぐり。
 覆いかぶさって体を押し当てる。胸元に顔を押し当て、セーターの中に手を突っ込んで、伝わってくるニパの体温におぼれる。
「イッル、冷たい……お前どこ行ってたんだよ!」
「ハンガー。寒かったんダナー……」
「何やってんだよ……でさ、あの、放せ……」
「何ダヨ冷たいなー。寒かったんだぞー」
「そ、そうか! じゃ火にでも当たろう! な!」
「うるさいなー。暖炉よりニパの方がいーんだってー」
「なんだよ……それ……」
 はー。あったけー。生き返る。更に暖を求めてニパに密着し、セーターからわずかに覗くニパの首筋と頬に顔を当てる。ニパの柔らかい胸に私の胸を押し当てる。伝わってくるニパの暖かさと柔らかさ。それを感じながら目を閉じる。
「ひゃ……くすぐった……! やっぱ駄目だって! お前、触り方がなんかやらし……」
「ひどいぞニパー。黙って暖まらせてくれヨー」
「うるっさいセーターずらすな! 足冷た……引っ付けるな! 胸も……当たってるって!」
 床に押さえ込まれたまま、ニパが自由な右手でどんどんと私の背中を打つ。残った左手でずり上がったセーターを引き下ろしながら、涙声で言う。
「……本当に……怒るぞ! ……ひどいじゃないかイッル!」
「冷たいコト言うナヨー」
「だからって! 変な触り方するなよ! 脇とか……やめろって! ぁ……」
「ゴメンなーニパ……もう少しー」
「だから……だめだっ……てっ! 大尉が見て……バカッ!」
 ぐいっ。私に押さえ込まれたニパの身体が、強い力で引っぱられる。

「――正座を解いていいと言った覚えはありませんよ、ニパさん」
 ニパの脇の下に手を突っ込んで、ニパを私の下から引きずり出そうとしている大尉。
「痛……っ! なんで私の方を引っ張るんだよ!?」
「悪いのがニパさんだからです」
 ニパの抗議に対して理不尽に断言するのと同時に、大尉はその華奢な身体からは信じられないような強い力でニパを引っ張る。次第に私の手の中から引きずり出されていくニパ。
「なんだよー。ニパで暖まってるのは私なんダゾー」
 逃がすか。私は立ち上がり、ニパの腰にしがみ付く。
「ちょっ……」
 そしてそのまま私達は動きを止めた。
 大尉はニパの脇を。私はニパの腰を。お互い掴み合ったまま、私と大尉はにらみ合う。
(――放しなさい!)
(――放セヨ。)
 無言のまま、瞳の光でお互いを威嚇しあう私達。そして私達の顔に同時に微笑が浮かび――
「二人とも放してええええ!」
 私と大尉はニパの引っ張り合いを始めた。

--

「放しなさいエイラさん! ニパさんにはまだ正座と暖房と言う任務が……!」
「こっちは凍死寸前だったんダゾ。こっちが優先なんだな!」
「だからってニパさんにあんないかがわしい事、していい訳ないじゃないですか! ……放しなさい!」
「大尉こそ放したらドウダ? 知ってるカ? 扶桑ではこういう時、先に手を放した方がお母さんになるらしいゾ?」
「私は扶桑人じゃありませんし、ニパさんの親権を主張しているわけでもありません!」
「でも愛情の多寡は分かるんダナ!」
「大体あなた一度ニパさんの事を諦めたじゃないですか! それなのに戻って来てひっつくなんて虫が良くありませんか?」
「大尉がずっと独り占めしていいってもんでもないじゃダロ!」
 ふーっ。ふーっ。荒い息をつきながら罵倒しあう私達。
「あのー」
 双方から引っ張られながら、ニパが間の抜けた声を出した。
「セーター、伸びてるんですけど……」
「ニパ黙ってるンダナ!」
「ニパさんは黙っててください!」
 ほとんど同時に怒鳴りつけられて首をすくめるニパ。
「いや、でもほら、引っ張られると痛いからさ……」
「……ほら。ニパさん痛いって言ってるじゃないですか!」
「そっちこそ放セヨ! ニパをいつも正座させてるような奴に言われたくないんダナ!」
「それはニパさんが安全に対して留意してもらうためにしている指導です! 欲望のままにニパさんの身体を弄ぶような、あなたに言われたくありません!」
「あの……大尉、変な事言わないで……」
「……大体なんですか、いくら長い付き合いだからといって、ニパさんに大してべたべたべたべた、甘え過ぎなんじゃないですか!」
「うるさいんダナ! 私とニパの間では、このぐらい当たり前だったんだぞ!」
 大尉に向かって声を張り上げる。

 そうだよ。私とニパは昔からずっとこうだったんだ。私とニパの関係は、昨日今日会ったような奴にどうこう言われたくないんだぞ。
 私より階級が上だろうと、ニパの上官になる人だろうと――これだけは譲れない!

「――だからこいつは渡せない! これは、私のもんだー!!!」






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4.



「――エ?」

 そこにいる全員が、動きを止めていた。
 当然返って来ると思っていたポクルイーシキン大尉の反論を予想して、ニパの身体を引っ抱えた私の耳を打つものは――

「あの……ナニ?」

 ――痛い位の沈黙。
 外に吹き荒れる風の音が聞こえる静寂の中、全員が凍り付いている。

「イッル……」
「え?」

 長い沈黙の後、ようやく口を開いたのは、ニパだった。

「……あのさ、痛い」
「……あ、ご、ゴメン」

 ニパに言われて私は屈み込み、ニパの身体を床に下ろす。大尉も無言でニパを抱いていた腕を解く。
 ニパは立ち上がり、いそいそと乱れたセーターの裾をずりおろしながら言う。
「イッル……そのさ……」
 後ろに手を回し、ポーチの付いたベルトをぱちんと止めた。
「あ、あんまりその、変な事言うなよな……」

「あ、あの、変な事ッテ……?」
 変な事って……その。
「だからさ、その……渡せない、とか……」
「エ? エ……?」
 ニパの言葉を、消え入るような恥らうような声。こいつらしからぬ言葉を、何度も頭の中で繰り返す。
「あ、いやうん。寒くてあんな事言ったのは分かってるんけどさ……。こんな所で、あんな大声で言うなよ……」
 ニパの真っ赤な顔。潤んだ目。ニパはちらっと私の方を伺い、顔を背けて呟いた。
「誤解しちゃうだろ……ばか……」
「そ、ソウカ?」
 何、言ってんだよ。
 もじもじとセーターの裾を弄りながら、ちらちらと私の顔をうかがうニパ。これまで見た事もないようなニパの姿を見て、何だか私まで恥ずかしくなる。
「その、ゴメン……」
 顔が熱い。鼓動が早い。
 気まずくて、恥ずかしくて、ひょっとして甘いのかもしれない、そんな雰囲気。それを――
「ニーパーさーんー?」
 ――ただならぬ悪寒が吹き飛ばした。
「ひぃ……っ」
 ニパが首をすくめて振り返る。私もニパの背後を見る。
「あ、あの、大尉……」
「ニパさん……」
 白熊の耳を生やしたポクルイーシキン大尉が、ニパの後ろから、ニパの顔を覗き込んでいる。ニパに向かって静かに語りかける大尉。
「……統合戦闘航空団を指揮しているとですね……各国のウィッチから、いろいろな知識を吸収出来るんですよ……」
 大尉はニパの身体に寄り添い、そっと腕を回す。びくりと背筋を伸ばすニパ。
「整備の技術とか、各国の規格とか、効率的な部隊運用のノウハウとか……」
 大尉はニパの耳元に顔を寄せて囁く。
「……扶桑式の……反省、とか……」
「うひゃあああああ!」
 ニパは半泣きで大尉の腕から逃れ、そのまま私の方に倒れこむ。足をもつらせて床の上に転がる私達。
 座り込みながら大尉を見上げる。背後に荒ぶる白熊の幻がありありと見える様な、空気中の水分を凍てつかせるが如き怒りを纏って、私の方に歩を進める大尉。
「……デコピンやうめぼしに始まって、飯抜きや漢字の書き取り、果ては正座やスマキまで……、他部隊との交流の中でこの私が身につけた、扶桑式48のお仕置き技……」
「ニニニニニパ! どうしようニパ!」
「イッル! どうすんだよイッル!」
 私達は腰が抜けたまま床の上を後ずさる。狭い部屋の中、すぐに壁に壁に行き当たる。振り返ると今にも私達にのしかかろうとするポクルイーシキン大尉。
「……フルコースで、どうでしょうか……?」
「あ、ああ……あああああ……」
 私とニパは抱き合ってがたがた震える。
「イッル! お前が悪いんだぞイッル! 何とかしろイッル!」
「ど、どうすればイイ? 死んだ振りカ? 目を見つめながらゆっくり後退すればいいんじゃなかったカ?」
「何言ってんだよお前! 謝るとか! 詫びるとか! 土下座するとか!」
「ににににニパ、た、たた確か歌を歌いながら歩くと遭遇を避けられるんじゃなかったカナー?」
「失礼だお前超失礼だよ! 正座だって! とにかく正座!」

 ――かつん。

 そして革靴が床を打つ軽やかな音が、最悪の事態を私に告げる。聞きなれたその足音がした方向に、私は反射的に顔を向ける。
「さ、ササササ、サーニャ!!」
 いつからそこにいたのか。部屋の隅から、サーニャが私達の方をじっと見つめている。
「ニパさん、エイラはね……」
 かつん。サーニャがゆっくりと、私の方に近付いてくる。
「すごく恥ずかしい事を言っても、自分では気づいてないのよ……」
 かつん。革靴が床を踏みしめる足音。
「あ……あの……」
「突然出て行ったから探していたのに、こんな所に居たのね。エイラ……」
 こつん。
 サーニャは歩みを止める。顔を上げる。サーニャは笑っていた。
「あ、あの。サーニャ、さん……?」
 私の呼びかけを無視して、みょいん。魔力が発動する効果音と共に、ベルトの下からこぼれ出る艶やかな尻尾。頭に立ち上がる可愛らしい黒猫の耳と――ピンクに染まった魔導針。
 同時にきぃんという耳鳴りと、ちりちりと肌を刺すような熱さを感じて、私は身を竦める。
「……さ、サーニャー……」
「なに、エイラ……」
「なんだか、あったかいん、ダケド……」
「うん。それは電磁波の効果なのよ、エイラ」
「そ、そう?」
「魔導針から放出される電磁波を水に当てると、水の分子にエネルギーが与えられて温度が上がるの。
 レーダーの実験をしていたウィッチがね、ポケットに入れていたチョコレートバーが溶けた事から、偶然発見したの」
「へぇ……そうなんだ」
「暖かいでしょ? エイラ」
「……そ、ソウダネ」
 温度だけなら高いよね。サーニャの電波まめ知識を聞きながら、肌を灼き身体を内から焦がす熱さが、じりじりと強さを増していくのを感じて、私の背筋が凍る。
「……でででもサ、なんで電波を出してるのカナ? ちょっと危ないんじゃないカナ?」
「なんでって?」
「うん。ひょっとして、近くにネウロイが来ているのカナー……?」
「ううん。ネウロイはいないよ……大丈夫」
「あ、じゃあもしかして、誰かが私達を訪ねて来てる、とかカ……」
「そんな人はいないよ、エイラ」
「そ、そうなんだー……」

 肝心な事実から目をそらすための応酬は終わり。
 私は口を開きかけて、閉じる。唾を飲み込み、きっちり三秒間サーニャの顔を見つめる。

「あのサ……もしかして」
「なに? エイラ……」
「うんもしかしてなんだけど、その電波……」
「……うん。なぁに、エイラ」
 にこ。サーニャは微笑む

「もしかして、もしかして、私を狙ってる……とか」

 私の質問を聞いて、サーニャはとても綺麗に笑い――

「うん」
「やめてぇぇェエエエ!!」

 頷いて魔導針を輝かせた。






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E.


「あのさー。もう寝るから、いい加減戻って来いよ」
「ううっ。ニパ……私はどうすればいいんダ……」
「さぁ……とにかくまた謝れば? 土下座でもして」

 私とニパが必死になって「ごめんなさい」をして、いくつかの「反省」をして、なんとかあの場を生き延びた後。気まずくなってサーニャの傍を離れ、一人寂しく台所でガスの炎に当たっていた私を、ニパが迎えに来てくれた。

「しかしさー。お前も大変だなー」
「――何が」
 炎で温まるついでに暖めていたお茶をカップに注いで、ニパに渡した。二人でガス台の傍に立ったまま、カップのお茶を飲む。
「ポクルイーシキン大尉。502だと上官なんだろ? あんな人がとずっと一緒ってさー。私じゃ我慢できイナ」
「……あはは。そうかも」
 ニパはくすりと笑って、カップに口をつけた。こく、とお茶を一口含む。
「でもさイッル。あの人はさ。
 ストライカーを壊すと、すごく怒るんだけど。あの人は私がどれだけ壊しても、ちゃんとストライカーを直して、また空を飛ばせてくれるんだ」
 カップを包むように持つ自分の手元を見つめながら、ニパは静かに言う。こいつには珍しい、幸せそうな微笑。
「油塗れになってでも、私を飛ばせてくれる人なんだ、あの人」
「ふぅん」
 その微笑と、ストライカーを壊しすぎたせいで戦闘機隊から外され、しょげていたニパの姿を比べる。
 お前を飛ばせてくれる人――そういう人に、お前は出会えたんだな。
「……502に、行くのカ?」
 こいつにも確かに時間が流れている事を知りながら、思わずそんな事を聞いた。そうだよ、とニパはあっさり答える。
「そっか……」
 がんばれ、とも、やめとけ、とも言えずにいる私。ニパは私の顔を見て、にやあっと笑った。
「何だよイッル。寂しいのかよ」
「ソ、ソンナンジャネーヨ!」
「何だよ悲しいなー。私は寂しかったぞ。イッルがブリタニアに行ったとき」
「そ、そうなのカ……?」
「……でもさぁイッル。お前と離れてみて、思ったんだけど」
 ニパはカップをテーブルに置いた。私の傍に立ち、私の顔を覗き込みながら話しかける。
「結局どこにいても、私達ウィッチは空を飛んでるんだよ。私達が生きている限り、どこにいても、誰といても、それだけは変わらないんだ。
 どんな空の下でもきっとお前は、今の私と同じ様な事をやってる。そういう風に思うとさ。寂しくても、それが少し楽になるんだ」
 ぽん、とニパは私の肩に手を置いた。
「――私達が飛ぶ空の色は、どこにいても同じなんだよ。イッル」
「……」
「……まーそういうことで!」
 自分の言った台詞に照れたのか、ニパは私から慌てて離れると、ボイラー室に続くドアに駆け寄り、飛び出していく。
「ボイラーの様子見てくる! 夜中に止まったら大変だしさ」

--

「――ダッテサ」
 ニパが去ったドアを見ながら、背後に向かって話しかけた。
「聞こえタカ? 大尉」
「……あれだけ大きな声で言ってれば、嫌でも聞こえます……」
 廊下の角から寝巻き姿のポクルイーシキン大尉が顔で現れた。立ち聞きが気まずかったのか、部屋には入って来ずに、長い髪を指先でいじったまま立ち尽くしている。
「あいつさー、ウィッチとして空飛ばせてくれるの、すごく嬉しいみたいなんダヨナ」
「べ、別に、ニパさんが戦う為に、環境を整えるのは私の任務ですから……」
 私の言葉を聴いて、大尉は口ごもりながらドアの傍に座り込むと、壁に開けられた温水配管のバルブのハッチを開けた。
「し、私情でやってるわけではありませんから……その、感謝されても困るんですけど……」
 ハッチの中に手を突っ込んで、配管のバルブをねじ切れそうな勢いできゅこきゅこ回す。真っ赤な顔で。
「え、ええっと、そ、それより寝室に戻ってください! ここのヒーターも落としますから!」
「そっか? ……分かったヨ」
 きゅ、っとバルブを閉めた大尉は、逃げるように早足で寝室の方に歩き出す。私は慌ててその後を追った。

「寝室以外、暖房止めたノカ?」
「そうです。あとボイラーの火力も絞ったほうがいいですかね。夜中ですし」
「ソウダナ。あ、ニパに言っとけば良かった」
「ニパさん、ボイラー見に行くって言ってましたね」
「……」
 私と大尉はそこで足を止めた。大尉がゆっくりと振り返る。

「……ナァ、大尉」
「なんですか?」
「ニパ行かせちゃって、大丈夫だったのカナ」
「――え?」
「いやほら、ボイラー。あれも一応、機械ダシ」
 高確率で機械を故障させるニパの特性を思い出しながら言うと、大尉は慌ててかぶりを振る。
「いや、いくらなんでもー。ただ様子を見に行くだけですから」
「そうダヨナー。それにあいつ、人を巻き込んで墜ちたりしないし……」
「そ、そうですね。あの人、事故にあっても他の人を絶対に巻き込んだりはしませんから――でも」
 大尉と私は顔を見合わせる。

「――滑走路に穴開けたりは、してる訳ですけど――」

 どかーん。
『ひどいじゃないかああああ!』

 耳をつんざく爆発音と叫び声。
 大尉が青ざめた顔で私の顔を見る。私は目を閉じ、静かに頷く。


----


 寝室に戻った私達の耳に、廊下を戻ってくる、重い足音が聞こえた。

 暗闇の中、寝室の扉が開く。戻ってきたニパが、部屋の中央まで足を運んで、そこで立ち止まった。
 ニパはベッドから毛布を一枚とり、床の上にそれを敷いて上に立つ。私達は黙って、その姿を見守る。

 ニパはゆっくりと膝を折り、静かにそこで正座した。私達三人はベッドを抜け出して、ニパに近づく。
 私はニパの背中に寄りかかり、大尉は膝上を占領し、サーニャは私の手招きに応じて、私とニパに背中を預ける。その間全員無言。
 固まって座った私達全員の上に、大尉が毛布をかぶせ――

「ニパさんは一晩中ここで暖房!」

「あ、ほんとだ……ニパさん暖かい」
「イッルよるな! 暑いんだよバカ!」
「ちょっと誰ですか! ニパさんを蹴らないで下さい!」
「あったかいね……エイラ」
「ひゃあっ、誰の手だよこれ!」
「なんで逃げるんですかニパさん! 正座を解いていいなんて言ってませんよ!」


 さらに勢いを増す寒さと姦しい叫び声と渦巻く殺伐とした雰囲気。猛吹雪の中更けて行くヨロイネンの夜。
 全員分の体温と居心地の悪い思いとこみ上げる生命の危機をひしひしと感じながら、窓の外の暗闇を仰いだ。

 誰か助けに来ないかなぁ。


                                                おわれ


-----
エイラ最低だな。書いといて言うのもなんですが。
ニパの人肌暖房で話を作っていた所を、ジョゼの設定に吹っ飛ばされましたので、ここでひっそりと供養だちくしょー!
サーニャとアレクマさんをもっと書いてやれなかったのが心残り。

正座どころかシベリア送りになりそうな、ひどいSSに最後まで付き合っていただきありがとうございました。お礼を言えばいいってもんじゃないが。



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2013/05/27(月) 01:07:01 | | # [ 編集 ]
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