ストライクウィッチーズのSSを書いてます。 その他百合中心で書くつもりですが、普通の日記も書くかも。
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SS「E-M-E」 (エイラ×サーニャ, 12KB)
E-M-E


――聞こえますか?
夜空の果てに耳を澄ました。

----

 雲を抜けると、私を覆うフィールドの上で凍った水分がはがれ落ちて夜空にきらめく。
 冬の迫るスオムスの空には、視界一面に月の光を浴びて銀色に光る雲の海が広がっている。聞こえるのは風の鳴る音と単調なストライカーのうなり。それ以外は音のない静かな夜の空の中で、私はラジオをつけて聞き始める。
 つぶやくように続くニュースの声。調子のいいおしゃべりと、それに応えるにぎやかな笑い。静かに語りかけてくる女の人の声。そして聞き慣れないけど不思議に落ち着く曲調のポップス。遠くから伝わってくる音の一つ一つに波長を合わせて、それらの音を聞いていく。
 聞こえてくる音の中にはどれも幸せや楽しさが含まれていて、まるで夜の街路にこぼれる家々の明かりのよう。
 夜空を飛び交う声たちを聞いていると、暗い夜の中にいても暖かさに触れていられるようで、昔から楽しみにしているけれど。

(――エイラ、もう寝ちゃったかな)

 ラジオをつけたまま、定時の連絡を送ったばかりの、カウハバ基地のほうを振り返る。
 哨戒に出る前の言い合いと、しおれていたエイラの姿を思い出す。後悔が胸に押し寄せてくる。

(あんな事、言うつもりじゃなかったのに)

 胸に穴が開いて、何かがそこからこぼれ出ていく様な気持ち。寂しさを抱えたまま、顔を上げて行く手に広がる空を見た。
 見渡す雲の海はこんなに広くて、押し寄せてくるような星はあまりに多くて、きれいだけれどなんだか怖い。当たり前だと思っていたけど、夜空の中ではこんなにひとり。

 ――聞こえますか?

 アンテナを通じて、闇の中へと想いを飛ばす。
 返ってくる声を捜して、夜空の果てに耳を澄ました。


----


「あのサ……」

 哨戒の準備をしていた私に、エイラが声をかけてきた。私の後ろに立って頭の後ろで手を組みながら、落ち着かなげに爪先でとんとん、と地面を踏む。
 どうしたの? と首をかしげると、エイラはえーっと、その、といいながら何かを言おうと言葉を探している。歯切れの悪い言葉、落ち着かない態度。私たちがスオムスに来てから一ヶ月、最近のエイラはなんだか元気がない。
 しばらく待っていると、エイラはようやく話し始めた。
「あのサ……私たち、501が解散した後もさ、休みなかったダロ。それで、そろそろこっちは夜が長くなるし、そしたらサーニャ忙しくなるだろうシサ……」
「うん……」
「それでその前に、一緒に休みとろうかと思うんだケド……」
「うん。いいけど……。でも、こっちに来る時も少し寄り道してたから、休んでないっていう気がしないわ」
「あはは、ソウカモ……でもさ、このところ小康状態が続いてるから、消化したほうがいいって言われたしサ……」
「うん。それなら、いいんだけど」
「それでさ……」
「?」
 エイラは私の顔を見て、また下を向いた。話しにくそうに、うぅ、と口ごもる。
「そのサ……サーニャは、どっか行きたいところとか、ないカナ?」
「うーん……」
 突然の質問に対して、私は少し考えてから答えた。
「それなら、エイラの生まれたところ行って見たいな……」
「え?」
 エイラは一瞬驚いた顔をする。あー、といいながら気まずそうに頭をかいた。
「……でも、それムリカモ。あの辺まだネウロイいるみたいだし……」
「そうなんだ……ごめん」
「……あ! 違うぞ! 私はそんなに気にしてるわけじゃないからいいんだぞ? 今ではここが私の家みたいなもんだし……」
 慌ててまくし立てたエイラは、急にそこで言葉を切った。しまった、という顔をして口に手を当ててる。
「?」
「……あ、あのさ。サーニャは、気にせずにいていいんだかんナ。501にいたときみたいに」
「そんなこと気にしてないわ」
「そうカ?」
 おずおずと言ったエイラは顔を伏せて、小さな声でゴメンと言った。

「……」
 何でエイラが謝るんだろう。
 なんとなく気まずい、空回りしてる会話。気を回しすぎて、言葉がお互いの表面を上滑りしている様な会話が少し腹立たしい。大体、何でエイラが謝らなきゃいけないんだろう。まるで、自分だけが祖国に戻ってきたことが後ろめたいみたいに。
 お父様とお母様に会いたいと思う。無事でいて欲しいし、一日も早くその事を確かめたいし、お父様とお母様の声を聞きたい。私はずっとそう思ってるし、エイラがそれを気にかけてくれていることも知ってる。
 だけど私は、それをエイラに、そんな風に気にして欲しいわけじゃないの。そんな苛立ちが口をついて出た。

「――エイラこそ、なんか変」
「え?」
「ここに来てから、ずっとそんな感じ」

 そう。最近ずっと変だった。何か悩んでいるような、言い出したいことを言えずにいるような様子で、一緒にいるときも、どこか気まずそうにしていて。何か言いたいことがあるんなら、言ってくれてもいいのに。そんなに私の事が信用できないんだろうか。

「そんな事なイッテ。何言ってんダヨ」
「だったらなんで、私がここにいても気にしなくていい、なんて事をわざわざ言うの?」
「……あ」
「私がお客さんだって思ってるのは、エイラの方じゃない」
「そうじゃないって……だから……」
 言いかけて、エイラはしゅん、としおれてしまった。
「――ごめん」
 そんなエイラの姿を見て、ずきりと胸が痛んだ。エイラを傷つけてしまった自分が、すごく嫌になる。

「――行ってくるね」
「うん。気をつけてナ」

 その場にいられなくなって、私はエイラに背を向けた。
 滑走路を走り、冷たい空気をかき分けて空に上がる。振り返って地上を見ると、エイラがハンガーの出口に立って、私の事を見送っていた。


----


(――帰ったら、ちゃんとエイラと話せるかな)

 押し寄せてくるような闇と、冷たい空気。それを浴びながら私は、気落ちしていたエイラの姿を思い出す。
 ――あんな事、言うつもりじゃなかったのに。
 あなたを責めたいんじゃなくて、伝えたい気持ちは別にあるのに。ただ私は、エイラが私と一緒にいる事を負担に思って欲しくなかった。
 本当は一緒にいられて、どんなに嬉しいかを知って欲しいのに。ただ私を信じて欲しいだけなのに。

 ――えいら。

 果てのない暗い夜空に向かって言葉を投げる。聞こえますか? 私の言葉は届いていますか? 返ってくる言葉を探して耳を澄ます。返ってくる言葉はなくて募る寂しさ。
 夜の空はこんなに広くて、私はその中で一人で。ラジオは私に語りかけてくれるわけじゃないと分かっているけど、それを消すことは出来なくて。
 夜空の中に、誰かの話す言葉を探す。ナイトウィッチはみんな、こういう気持ちで、誰かの声を探すときがあるらしい。

『――だからきっと、自分の声を少しでも遠くに届けたくなるんです。それで、Erde-Mond-Erde(地球-月-地球)の通信なんて考えるんでしょうね』

 カールスラントのナイトウィッチ、ハイデマリーさんも、そう言っていた。

『――電離層と地面の反射だけだと、魔道波が届く距離が限られますけど、この月面反射通信なら、お互いに月が見えていれば話せるんですよ』
『すごいですね。でも……月まで魔道波が届くんですか?』
『……ええ。減衰がひどくて、拾えるレベルの信号はなかなか返ってこないんです……。ノイズに埋もれてしまって』
『……変調をかけずに符号で通信しても駄目なんでしょうか?』
『――結局は魔導波の出力とアンテナの利得の問題なんですけど……何しろ、電波が返ってくるのに2.5秒もかかる所なんですから』
『なんだか、気の遠くなる様な話ですね……』
『そうですね。今はまだ夢の話ですけれど、信号の解析が出来ればきっと、話すことも出来るはずなんです。そうすれば、もっとたくさんの人と、こうしてお話できますよ』
『そうですか。素敵な事ですね』
『ええ――夜の中を飛んでいると、時々とても、人の声が聞きたくなりますから』
 ハイデマリーさんは静かにそう言った。

 その日はハイデマリーさんがネウロイの勢力圏内に入るから、と言って別れたけれど、とても楽しい会話だった。
 501のみんなとは、ほとんどこんな話は出来ないし、それに他のナイトウィッチと、夜の中を飛ぶ寂しさを伝え合えたから。
 そう。私たちは、月に声を届かせたくなるほどに、ひとりぼっちで寂しい。

 ――聞こえますか?

 月にアンテナを向けて語りかける。降り注ぐ冷たい銀の光。
 地球から月へ、そして月から地球へ。ハイデマリーさんがカールスラント語で言った、EME(月面反射通信)と呼ばれる通信。同じ月を見ながら、そこから返るこだまで交わされる言葉。気まぐれな電離層もお天気も、お互いを隔てる山々も海も、ネウロイさえも飛び越えて届く声。それが実現すればきっと、地球の裏にまで声は届くけど。

 ――聞こえてる?

 多分もう眠っている、あの人に向かってつぶやく。

 ずっと忘れていたけれど、空の中ではこんなにひとり。
 世界中に届く声よりも、あなたが応える言葉が欲しい。



----


 かすん、と咳き込むような音がストライカーユニットから聞こえた。ストライカーに付けられた呪符が空転し、また回り始める。
 エンジントラブル? それとも魔力切れ? こんなに早く? 驚いて時刻を確かめると、午前六時。いつもなら十分飛んでいられる時間のはずだけど――頭の重さと眠気が、私の魔力が残り少ない事を告げている。
(――そうか――)
 ウィッチの魔力は、ウィッチの精神状態によって左右される事を思い出した。自分でも気付かないうちに、魔力が落ちていたのかも――。
(着陸しなきゃ――)
 原因はともかく、このままだといずれ飛んでいられなくなる。そうなる前に着陸しようと、私は地上を目指して降下する。

 雲をくぐって見下ろした地上は、雪に覆われた一面の針葉樹林。夜目を凝らして見慣れない地形を何とか読み取り、管制に連絡を取って位置だけを伝えた。焦るな。集中しなきゃ。懸命に減速しながら、まだ遠い地上を目指す。
 かすん。かすん。と断続的にエンジンが停まり、また動き始める。着陸できそうな開けた場所を見定めてから、最後にシールドを張る魔力を残すために、ストライカーユニットへの魔力の供給を絞る。私を支える力が消えて、糸が切れた様に地面に向かって落ちていく私の体。急速に近づいてくる大地。

「――サーニャ!」

 エイラの声がして、私は後ろから抱きとめられた。スオムス軍服を着た腕が私の体に回されている。
「えいら……?」
 降下する私を引き起こして、エイラと私は、森の梢の上を掠めるように飛んでいく。
「連絡が途切れてたカラサ――探してたんダ」
 私の後ろから、エイラの声がする。はためくエイラの髪が、私の身体をなでていく。
「――上がるゾ」
 エイラは上昇し、雲の上に出る。月が照らす広い広い雲の海と、押し寄せてくるような闇。暗くて冷たい夜の空。
 さっきは寂しさが募るだけの場所だったけど、私を抱きとめてくれるエイラの手。私をふわりと包むエイラのにおい。

「……ごめんナ。遅くなって」
「エイラ……」

 身体を回し、エイラの顔を見る。本当にエイラなのを確かめるように、手を伸ばして頬に触れた。指先に伝わる冷たく滑らかな手触り。私を見て微笑んでるエイラと、その背後に浮かぶ月。
 月は遠くに浮かんでいるけど――あなたはちゃんとここにいる。


----


「調子悪いのなら、ちゃんと連絡して帰って来いヨナー」
「ごめん――本当に気づかなくて」
「サーニャが帰ってこなかったら、私どうしたらいいかわかんないんだゾ」
「うん――ゴメン」
 怒りながら、ちょっと泣きそうなエイラの声。エイラの背負われて飛びながら、私はそれを聞いている。
「……ゴメンな。あんな事言ったまま、行かせちゃって」
「うん。いいの」
 飛び立つ前と同じような、ごめんの応酬。でも嫌じゃない会話。きっとそれは、本当に伝えたい「ごめんなさい」だから。エイラもきっと同じだから。


「あのサ……さっきは、うやむやになっちゃったんだケド」
 早朝の灯りがともるスラッセンの街が見えてきたとき、エイラが言った。
「うん。なに?」
「今ならさ、ネウロイの巣を迂回して飛んでいけると思うんダ。ヨーロッパの向こうへ」
「――?」
「それにさ、私とサーニャの魔法があれば、近づくネウロイを察知して、避けながら飛んでいけるだろ?」
「――うん」
 要領の得ない言葉。エイラが何を言ってるのかよく分からないまま、私は返事をする。
「だからさ……その、休みの話」
 そう言ってエイラはぐん、とスピードを上げる。風のうなり声の中で、エイラの声が聞こえた。

「――行こうヨ。オラーシャ」
「え?」

 顔を上げてエイラの頭を見る。まっすぐ前を向いたままのエイラの顔。髪をなびかせながら、エイラは言う。

「サーニャの家族、探しに行こう。今ならいけるよ」
「……」

 ひょっとして――ずっとそれを言いたかったの? ずっとそれを考えてて、でも言えなかったの?

「そう……」

 ――本当にしょうがない人。私は微笑みながら、エイラの背中に頭を預ける。

「――行けるかな」
「行けるヨ」
「……会えるとは限らないわよ?」
「うん。でも、ミヤフジが言ってたろ。諦めないでいれば、きっと会えるよって」
「うん」
「今度は無理かもしれないけど、いつか」
「そうね……」

 薄暗い部屋で、芳佳ちゃんが言っていた事を思い出す。私を励まして前を、向かせてくれたとても大事な友達。14歳の誕生日の、とても大事な思い出。
 その話をするたびにエイラは嫌そうな顔をしていたけれど、今までそれを覚えてくれていて。

「だからサー……その、一緒に……」
 ちらっとエイラが私のほうを振り返る。薄明かりの中でも分かる真っ赤な顔で私を見て、すぐに前を向いてしまう。
「……そうね」
 もう――そんなに思いつめた顔をして。
 考えていることをずっと言ってくれなかった、本当に照れ屋な人。それでもようやく、言葉を聞かせてくれたあなた。

 ――ねぇ聞こえてる、エイラ?

 あなたから私へ。私からあなたへ。声が届くように、エイラの耳に口を寄せる。

「行こう……うれしい」
「……そっか」

 エイラはう、と身を硬くしてしまう。はー、とためていた息をつきながら、たどたどしく言った。

「……良かっタ……うん」

 呟くようなエイラの声。きゅっと私の腕を握る手。とても早いあなたのどきどき。
 ――聞こえるよエイラ。ありがとうの言葉の代わりに、回した腕に力を込めた。


おわり


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