ストライクウィッチーズのSSを書いてます。 その他百合中心で書くつもりですが、普通の日記も書くかも。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
SS「GAP」 (ゲルト×エーリカ, 10KB)

GAP


 39、40、41……
 秒の数を頭の中で数えながら、水底から私は浮び上がる。頭上の水面に見える日の光のゆらめき。
 それを見ながら私は浮上し、水の上に顔を出す。

「……ん」

 ストップウォッチを押して、岩の上に立つトゥルーデが頷いた。
 海上に着水した時の退避行動。501への転属が決まってから、何度もやらされた訓練を私は繰り返している。

「あと10本」
「えー? みんなそろそろ帰るよ?」

 少し離れた浜辺を見ると、みんなが海から上がり始めている。坂本少佐が「おーい! そろそろ帰るぞー」と私達に声をかけた。

「……時間切れだねぇ」
 かえろっか、といじわるく言いながら、抗議の意味もこめて、私はふらふら犬かきで泳ぎ回る。
 ぴくり、とトゥルーデの眉が跳ね上がった。

「だーめーだー。何で私達は残っていると思ってる?」
「トゥルーデが意地悪だから」
「違う! 先ほどの訓練メニューは何だった?」
「……着水時の緊急回避行動」
「そーだ。良く分かってるな」

 ぼそっとした私の返事を聞いて、ようやくペースを取り戻したのか、トゥルーデはなんかえらそうな口調で言う。
 この口調が始まると、大体説教に流れるんだよな……私は肩をすくめた。

「ストライカーユニットを装備したまま着水し、尚もネウロイが頭上を旋回中。それが想定されてるケースだったな」
「そうだね」
「お前に今更言う事でもないが、撃墜して海上に放り出された場合、遮蔽物がない上にストライカーユニットも外されるから我々はシールドも張れないわけだ」
「うんうん。とてもよく分かるよ」
「僚機が救出に向かうだろうが、それがもし遅れた場合、ネウロイのビームの的になるよな」
「そうだね。危ないよねぇ」
「でも海中ならネウロイのビームは大分減衰されるから、着水したら出来るだけ早く海中にもぐって待避するのが、最低限行われるべき行動になる」
「なるほどねー。きっとそうすれば何とかなるよ」
「そのためには重量物を抱えて潜水を繰り返しつつ移動、という行動が回避の基本だ」
「すごく良く分かるよー」
「……それなのにハルトマン中尉は、なんで訓練をしていなかったのかな?」

 お姉ちゃんに言ってごらん? と言わんばかりのにっこり笑顔。私もそれに合わせて、笑顔で答える。

「海に来て遊ばないほうがおかしいって~」
「だからそういう所がいけないと言ってるんだ!」

 トゥルーデが爆発して、説教が始まる。

「大体お前はなんでこうムラっ気の塊というか突然急に言うことを聞いてくれなくなるん
 だ我々はこの統合戦闘航空団の中核をなすカールスラント軍人としてとりわけ規律ある
 行動を求められているんだぞそれにな他に換えの利かない戦力であるお前のそんな態度
 が上層部から問題視されてる事にいい加減自覚というものを持……」

 くどくどくどと。調子が出た時のトゥルーデの説教はMG42よりもうるさい。
 耳を塞いで逃げてもいいけど、そうするとトゥルーデが拗ねるから、黙って聞いてる。

「……とにかく、教練のメニューはちゃんと守れ!」

 ひとしきり私に向かって言って、トゥルーデは説教を締めくくった。
 確認する様に、分かったか? と聞いてくる。

「……いいぶんは、よくわかった」
「何だ? その言い方は」
「……貴官の見解については了解であります」
「いい方変えればいいってもんじゃない」

 何をふてくされてるんだ、とトゥルーデはまだ怒っている。
 ふてくされてるのはトゥルーデじゃないか、とも思ったけど、トゥルーデはこうなるとしつこい。しぶしぶ折れることにする。

「……分かったよ、もー」
「よし。じゃあ上がってこい。もう一回だ」

 私は腕を引かれて岩の上に上がる。

 ……訓練は大事なのは分かる。私たちは三人でまだまだやらなきゃいけないことがあるし、撃墜されたらそれが出来なくなる。それは嫌だ。
 だから、出撃してちゃんと戻ってくるためにも、訓練は大事。

 でも休憩になっても「次に備えて休む。それが休憩の定義だ」と言っていきなり寝そべって何も言わなくなる人とか、きっかり600秒で目覚めて次のアップをしだすような人にはなりたくはない。

 海だよ? いつもはコンクリで固めた岸壁の向こうの海しか見てないんだし、開けた砂浜を見てさあ遊べ! と言われてるように思えないトゥルーデはどうかしてる。
 そりゃ訓練は大事だし決められたメニューは守れ、という言い分は分かるんだけど。

 ……久しぶりに海に来てたのに。
 というわけで戦線離脱。泳ぎ続けるトゥルーデを放り出して、宮藤達をそそのかして遊びはじめた私を、いつの間にか海から上がってきたトゥルーデが、すごい形相で水中に引きずり込んだ。

 で、今に至る。

 確かに悪いのは私だけどさ。機嫌が悪いのは認めて欲しい。
 ……まぁ、トゥルーデには分かるはずもないけど。分かってくれても何も変わりそうにないけど。
 ほら、と重量物を持たされて、私は岩の上に立たされる。

「……小官としては、誠に遺憾であります」
「文句言うな」

 ……トゥルーデの馬鹿。

----

「遅いぞー」

 何度目かの往復を繰り返して、岸壁の上に上がった。
 身体が重い。手足が綿にでもなったかのように、力が入らない。

「だるいー」

 ぱたん。砂浜にうつぶせになって寝転がる。
 熱い砂に頬を押し当てる。目を閉じて波の音を聞く。傾きかけた日差しが暖かい。
 心地よさに私の目蓋が落ちていく。
 ──私はもうだめです。ウルスラの事を頼みます。おやすみ。

「こらー!」

 トゥルーデの罵声が私の耳を打った。顔だけそちらに向けると、岩の上からトゥルーデがこちらに歩いてくる。

「もう疲れたー。帰ろうよー」
「みんなやったんだ! 寝てないであがって来い!」

 ずかずかと歩いてきながら叫ぶトゥルーデ。──かちんと来た。
 ある事を思いつきながら、私は立ち上がる。

「……私はトゥルーデに付き合って遠泳やってたじゃんか」
「それはそれ。これはこれだ」
「なんだよそれ……いいからこっち来んな」
「よし。これで最後。終わったらゆっくり休め」
「……どーせ遊べなかったけどねー」

 岩の上から海の中を除きこむ。隣にはまだ怒ってるトゥルーデ。

「いいから、さっさと言って来い」
「はいはーい」

 追い立てられるように水の中に飛び込み、水の底を錘を抱えたままで目標のブイまで泳いでいく。
 ゆらゆら揺れる海藻と目の細かい砂。そして波と日差しが作る網模様。
 こんなのんきなところで、泳ぎ続けるわけいにはいかないよねぇ──。私は手足の力を抜いた。

 (──現時刻を以って、ハルトマン中尉は戦線を離脱します──)

 錘を手放し、仰向けの体勢のまま、水面に向って浮かんでいく。
 手足を広げて海上に浮かび上がる。閉じた目蓋の上から降り注ぐ太陽。

「おーい!」

 水に浸かったり浮かんだりする私の耳に、途切れ途切れにトゥルーデの声が響く。

「何やってるんだー!?」

 不貞寝してるんだよ。気持ちいいよトゥルーデ。

「おい! ハルトマン!?」

 遠くから叫び声と飛び込みの音。多分切れてるトゥルーデが私に向かって泳いでくる。
 水を切る音がだんだんと近づいてきて、腕を掴まれる。

「おい! ふざけるなハルトマン!」
「……」

 返事はしません。私はただのしかばねです。目を閉じたまま黙っている。

「ハルトマン……おい?」
 トゥルーデが私を抱きかかえた。
 トゥルーデは立ち泳ぎをしながら、ぺちぺちと私の顔を叩く。

「ハルトマン……?」
 トゥルーデの手が止まる。何も言わずに、多分私を見ている。
 そして私の体を何度か裏返し始めた。

「……出血……なし、……外傷は……なし、呼吸……正常……、外傷……なし……」
 変な事を言いながら私の身体を何度かひっくり返す。
 そして手を止め、突然私を抱えたまま、トゥルーデは浜に向って泳ぎだす。

「……とにかくミーナに……いやその間にフラウが……」
 落ち着け。落ち着け。トゥルーデの声が聞こえる。
 ……えーと。トゥルーデさん、あなた今ひょっとして慌ててますか。
 目を開けるタイミングを逃したというか、予想外の事態というか……どうしよっかこれ。

 浜辺に近づいたのか、トゥルーデは両手で私を抱えあげた。
「……頭は打ってないはずだし……動かして大丈夫か……? でも他に心当たりが……とにかく基地に連絡を……」
 運びながら、ずっと変な事ばかり言い続けている。

 ……どうしよっか。

 私が不貞寝していたのは、あくまでトゥルーデに抗議したかっただけで。
 どうせトゥルーデがそのうち「いい加減にしろ!」って切れて、「ごめーん」と言いながら私が目を開けて、トゥルーデがまたがみがみ言って、ぐらいの事だと思ってたから。
 トゥルーデがこんなに慌てるなんて思ってもいなくて。

 ……何やってんだよトゥルーデ。こんなの全然、トゥルーデらしくないよ。

 そう思うのは、多分私も慌ててるんだろう。
 心臓の音がうるさいぐらいに頭の中に響く。トゥルーデに抱きかかえられたまま、私は浜辺に向って運ばれていく。

 熱い砂の上に下ろされた。私の頭を抱えたまま、もう一度トゥルーデが私の頬を叩く。

「……おい……ハルトマン? ……ふざけるのもいい加減に……?」
 トゥルーデの呟く声が聞こえる。私の頬に触れた指先が震えてる。

「どうしよう……私が……」
 トゥルーデの胸に私は抱きかかえられる。震える声で私の事を呼ぶ。
「フラウ……」
「──トゥルーデ」
 私は目を開けた。トゥルーデが息を呑む。
「フラウ……?」
「……ごめん」
 舌を出して、すぐそこにあるトゥルーデの顔を見上げた。目を見張るトゥルーデ。
「…………お前っ!!」
「……トゥルーデ、慌てすぎだって」
「馬鹿っ!」
 トゥルーデが私を突き放す。砂浜に転がされる私。

 トゥルーデはその場で膝を抱えてしまった。途切れ途切れに呟く。

「何でお前は……いつもいつも……そんなに……」
「トゥルーデ……」
「──もういい! そんな態度ばっかりなら、もう訓練も付き合わない!
 撃墜でもなんでもされてしまえ! お前のことなんかもう知るか! 馬鹿!」

 膝の間に顔をうずめたまま、トゥルーデはそのまま黙り込んでしまう。背中が細かく震えてる。
 私は立ち上がって、その隣に腰を下ろした。

「──撃墜なんかされない」
 海の方を見ながら言う。
「トゥルーデもミーナも、絶対墜とさせない」
 だから許して。トゥルーデの肩に手を回して引き寄せる。
「……ごめんね、トゥルーデ」
「……うるさい……うるさい……!」

 繰り返し言い続けるトゥルーデ。
 彼女が顔を上げてくれるまで、私はトゥルーデの肩をたたきながら謝り続けた。

----

「よーし、これで最後だ」
 えらそうな口調で言いながら、トゥルーデがストップウォッチを構える。
「うぇー。もういいじゃん」
 海の中から引っ張り出してきた重りを抱えて、夕日に染まる岩に登る。
 文句はあとにしろ、と言う声を聞きながら、トゥルーデの隣に立った。

「……終わったら、ゆっくり休んでいいからな」
 珍しく静かな口調で、トゥルーデが言う。
 少しは気にしてくれてんのかな、とうれしくなって口を開く。

「そーだよね。休まなくちゃいけないよね
 ……あんなに心配されちゃったしー」
 笑顔を向けると、トゥルーデの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。

「うん。うれしかったなー」
 照れてるトゥルーデをよそに、重りを抱え上げて、一つ伸びをする。

「……お前は……」
 隣から怒りをたっぷり含んだトゥルーデの声。拳を握り締めて眉を吊り上げたトゥルーデ。
 うん。その調子。やっぱりトゥルーデは怒りんぼだ。でもそんなに握るとストップウォッチ壊れるよ。

「照れるなよー」
「……お前はどこまでおめでたいんだー!!」

 浜辺一帯に響くような声を上げて、トゥルーデが爆発する。
 行って来い! と、叫びながら私の背中を押した。

SS集積場へ
スポンサーサイト
コメント
コメント
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。